7. 化学気相成長法(CVD)の各種成膜方法と装置
図7.1 CVDの概念図 2)
PVDが薄膜物質を直接気化して薄膜化するのに対して,CVDは薄膜構成原子を含む化合物ガスを原料として,化学反応を利用して薄膜化する方法である.化学反応のためのエネルギーを何から得るかによって,あるいは,原料ガスの相違によって,いくつかの方法に分類される.CVDの概念図を図7.1に示し,表7.1に反応の形式による分類を示す.
CVDの装置の真空排気系はあらびき排気系のみの場合がほとんどである.また,原料がガスなので,均一なガスの流れを作るのがポイントということになる.原料ガスは,有毒性,可燃性,爆発性のものが多いので,ガス導入系および排出ガス処理系には細心の注意をはらう必要がある.
表7.1 CVDの反応形式の分類 2)
7.1 熱CVD(Thermal Chemical Vapor Deposition)
原料ガスを適当なキャリアガスにより反応容器へ導き,高温の基板表面で化学反応を生じさせ,目的の薄膜を作製する方法である.圧力は通常,大気圧〜数100Paが用いられる.基板を周囲から反応容器ごと加熱するHot Wall方式は,複雑な形状の基板への成膜に適しているが,外壁へも薄膜が付着してしまうのが欠点である.また,壁の温度を下げ,基板だけ温度を上げて,基板上で化学反応をおこなわせるCold Wall方式も用いられている.
熱CVD装置の各種方法を表7.2に示す.
表7.2 熱CVD装置の各種方法 2)
7.2 プラズマCVD(Plasma-enhanced Chemical Vapor Deposition)
原料ガスをプラズマ状態にして,活性な励起分子,ラジカル,イオンを生成させ,化学反応を促進する方法である.熱CVDより低い基板温度で薄膜を作製できるのが特徴で,圧力は100〜1Pa程度である.
プラズマの発生方法を表7.3に示す.
表7.3 CVDのプラズマ発生方法 3)
7.3 光CVD(Photochemical Vapor Deposition)
光を化学反応のエネルギーとして用いるCVDで,光源としては,各種放電管やレーザが用いられる.赤外領域の光を用いる場合は,主に熱反応を用いる事になる.一方,光によって特定の分子を励起するか,結合を切断して,生成する活性種を反応に用いる場合には,化学結合のエネルギーに相当する光子エネルギーが必要で,紫外領域の光源が用いられる.この場合には,低温での成膜が可能である.光CVDの装置の構成例を図7.2に示す.
図7.2 光CVDの装置構成例 2)
7.4 MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)
原料ガスに炭素-金属結合を持つ有機金属化合物を用いるCVDである.主にIII-V族およびII-VI族化合物半導体薄膜の作製に使用されている.
7.5 ALD(Atomic Layer Deposition)
ALD法においては原料分子が表面に吸着し,その層を一層形成した後に表面化学反応が自己停止する.次に,新たに別種の原料を供給し,目的とする物質を形成すると同時に,停止した化学反応を解除する.この過程で,目的とする物質の層が一層形成される.これを繰り返すことにより,薄膜を原子レベルにおいて一層ずつ断続的に形成させることが特徴である.